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TAISHI
TAKIMOTO
Artist ISSUE 3 2025 AW

山が内包する静けさと強さが共存するモノトーンの世界を描き出す若き日本画家、瀧本泰士。茨城・笠間市に活動拠点を置きながら、想像を巡らせつつ山を歩き、川を下る。彼は、自然に身を委ね、ときには俯瞰で観察しつつ、新しい発想で日本画の新境地を開いている。自らの感情ではなく、山での“事実”をトレース(写し取る)したドキュメンタリータッチの作品を発表し注目を集めている、彼の穏やかでしなやかなアティテュードについて探る。

「子供の頃から絵を描くのが好きで、兄弟での遊びと言ったら、一緒に絵を描くこと。書道教室にも通っていたし、割と遊び感覚で墨で絵を描いていました」とは、日本画家の瀧本泰士。幼い頃から画家になりたかったと語る彼は、大学、大学院で日本画を学び、卒業後にアーティストとしての道を歩み始めた。学生時代を過ごした筑波を離れ、現在は茨城の笠間市を拠点に活動を続けている。「作品作りができる場所を探しているときに笠間市が芸術家の移住をサポートしていると聞き、ここへ引っ越すことに。近くに陶芸家や漫画家、デザイナーさんなど創作活動に携わっている人たちも多く住んでいて、ネットワークも広がるし、都心からも近いのでとても住みやすいです」

 

瀧本を強く惹きつけるのが自然。中でも現在、彼の主題材となっているのが山だ。大学を卒業した後、地元の宮崎に戻ったときに何気なく登った霧島連山の霧掛かった美しい景色にすっかり魅了されてしまう。「正直、大学院を卒業したばかりの頃は、描く題材は何でもよかった。でも日本画で使う岩絵具は岩を砕いたものだから、山を描くのには相性がいいと思っていて。そもそも宮崎の田舎で育ったので、山は身近にいつもある存在でしたし。山登りは作品の制作に関かかわらず、単純に楽しいからやっているところもあります。実際、あまり体力もないので、体もキツいし、だんだん余計なことは考えられなくなってくる。でも頭はスッキリするから、あれもやりたい、これもやりたいと考え過ぎてモヤモヤしているときはとりあえず山へ行く。美術館巡りも好きなので、色々な作家の作品を観ていると真似したくなってしまったりもします。そんなときも山を歩いていると思考がクリアになります」

作品のアイデアを求める登山ではく、余計なことを考えず、気分転換ができるからこそ価値があるのだとも。そして、自らの作品において予定調和を好まない瀧本は、山でスケッチもしない。とにかく山を楽しむのだ。「目的を決めて登ると、結局、予想できるものしか作れなくなる。そこで何か繋がったらいいな、くらいの感覚です。とくに標高の高い山で霧が出ると数秒で一気に何も見えなくなる。そういう山の奥行きのような部分は、多分、見た景色をただ描くだけだと伝わらない。それだと僕は違和感を持ってしまう。とにかく現場では、感じることに重点を置いています」

 

山に惹かれる瀧本がそれを作品に繋げていくときに辿り着いたのが山水画だった。白黒の作品が得意な彼は、和紙に伝統的な日本画材である岩絵具を用いながら、山脈で起きている自然現象を追体験するかのように絵を描く。「もっとも山水画はとても歴史が長く、それを現代的に更新していくことは難しいと感じていて、最近は別の表現にも挑戦しています。今は、新しい作品を作ってみて、一旦、世に出して周囲の人の意見を聞きながら、探っている最中って感じですかね」

伝統的な日本画の世界や技法に寄ったり、離れたり。俯瞰で自分の作品と向き合いながら、新境地を切り拓きながら前進してきた。「白黒の作品を描き出したのはここ4、5年。僕には色のセンスが本当にないと自覚しているから、それを頑張って克服するメリットもないなと。さらに日本画の素材では、墨の黒も何種類もあるし、岩絵具の黒も粒子の荒さで色味が違う。その黒の変化にもすごく興味があるので、モノトーンだけで描いた方がいいと思うようになりました」

瀧本の作品には、強い即興性を感じるが実は緻密に計算された日本画らしい技法で生み出されている。ドーサ引きをして、絵具を載せてという全工程を頭の中でイメージしながら、小さいサイズで実験を繰り返し、本番に臨む。「実際に描き出すと修正は難しいので、下図をいっぱい作って、その計算がバレないように。僕は、即興で仕上げたように見えた方がかっこいいかなと思うことが多いです」

 

2023年には、北アルプスの雲ノ平山荘で開催されたアーティスト・イン・レジデンス・プログラムにも参加。それがきっかけに生まれたのが彼の代表作の一つである「トレース」シリーズだ。瀧本自身が歩いた雲ノ平の登山道の3Dデータをもとに山の等高線を湧水で磨った墨を使って和紙にトレース。昔の人々はどんなことを考えながら、この山を歩いていたのか、そんな場所の歴史や痕跡を追体験しながら作業を進める。雲ノ平について知る内に、そこが直面している登山道の問題、木道の管理や整備、ひいては国立公園の歴史や他国との考え方の違いなどにも考えが及んだと言う。登山道の維持、整備に必要なコスト、労力などの重要性を実感し、北アルプスの絶景が単純に美しいだけの存在だけではないと感じるようになったと。「山荘に滞在しての制作は、持っていける道具も画材も限られる。その結果、制限があるから新しい表現が生まれる感覚がありました。トレースのシリーズは、とくにそうで、作品を通して僕自身や僕が感じたことを表現したいのではなく、その場所を写し取るみたいな感覚です。映像で言うなら、物語ではなくドキュメンタリー。その場で体験したこと、山が抱える問題を取材している感じかと。僕の感情ではなく、事実だけを写し取りたいと思っていて、僕の気持ちは作品に反映しなくてもいいかと考えています」

雲ノ平に10日間ほど滞在した瀧本。そこで出会った経歴も滞在の目的も異なる人との会話も刺激になったと振り返る。普段、生活している笠間とは違う感覚になると。

「それも滞在制作の醍醐味ですかね。どんな場所を選ぶかによって、何ができるかなと出発地点を考えるのが結構、楽しいです。近場ではなく、遠くに行きたいと思うのは、その方が全く知らないものが見えそうな気がするから。その経験がどんな作品に結び付くか、自分で自分に期待しているところもあります」

そんな瀧本が今、夢中なのがカヤック。滞在制作で訪れた真冬の北海道で、マイナス 20度の気温の中、釧路川をカヌーで下り、その面白さに虜になった。「僕が住んでいる茨城でもカヤックができる川があるので、一人乗りのものを早速、手に入れました。水面がとても近くに感じられる独特の浮遊感が不思議で、生き物の気配を強く感じる。山登りとはまた違った感覚を楽しんでいます。僕はあまり意識していなかったのですが、水も山の形も地形図や木の年輪も、結局、全て水からできていると話している方がいて、すごく納得してしまった。川などの水も題材としては面白いとは思うけど、今は手を広げ過ぎず、山と向き合おうかと」

PHOTOGRAPHY: Naoto Usami

INTERVIEW: Tomoko Kawakami

Questionnaire

1

あなたは何をしている人ですか?

日本画を描いています。

3

あなたの仕事で一番好きなことを教えてください。

構想を練るとき。

3

今の仕事をするきっかけになったことは何ですか?

大学で日本画を専攻したこと。

4

これまで最も影響を受けた人物は誰ですか?

戸谷成雄/ 絵画への思考が深まるから。

5

あなたを3つの言葉で表すと?

冷静、慎重、頑固。

6

あなたを上げてくれるものは?

7

今一番興味のあることは何ですか?

島の生活

8

これなしでは生きていけないもの3つ

自由、移動、健康。

9

いつも必ず持ち歩いているものは?

スマホ

10

モーニングルーティンは?

ベタに餌をあげる。

11

インスピレーションが降りてくるときは?

自然の中を歩いているとき。

12

時間を忘れるほど夢中になれることは?

作品制作

13

あなたにとって最高の贅沢は?

山で飲むコーヒー。

14

刺激を受けるのはどんなとき?

新しいコミュニティが広がるとき。

15

一番好きな色は?

 黒

16

逆境に直面したときどのように向き合いますか?

一旦別のことに集中する。

17

人生で最も重要な決断は何ですか?

これといってない。

18

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

初めて一人で登った山の景色。

19

最近読み終わった本は?

大学の先輩が書いた本。

20

好きな作家は誰ですか?

小谷元彦

21

本棚にある本で好きなものを3つ教えてください。

『黒部の山賊』伊藤正一

『聖性の考古学』遠藤利克 

『彫刻と言葉』戸谷成雄

22

今旅するならどこに行く?

礼文島

23

最近、心を動かされた瞬間は?

真冬の釧路川での早朝カヌー。

24

最も印象に残っている場所は?

大学の卒業制作の取材で訪れた長崎の無人島。

25

子供のころからずっと好きで続けていることはありますか?

落書き

26

最近よく聴いている音楽は?

ヒロシ・ワタナベ

27

好きなミュージシャンは?

向井秀徳

28

これだけはゆずれないことは?

一人の時間

29

好きな映画を3つ教えてください。

 映画はあまり詳しくないです。

30

今までで一番刺激を受けた出会いは?

雲ノ平山荘で出会った人たち。

31

初対面の人に対して最初に目がいくポイントは? 

32

記憶に残っている香りは?

早朝の登山口の森の香り。

33

人から受けた最善のアドバイスは?

やりたいことはやる。

34

寝る時に着るものは何ですか?

適当なジャージ。

35

大切にしている価値観はなんですか?

自分の決断。

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