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Ruth van Beek
Artist ISSUE 1 2024SS

抽象的なペイントの隣には、ガーデニング用品やレトロなセーター、ケーキなどの見慣れた写真。Ruth van Beekが上梓した『The OldestThing』に収められた作品は、可愛らしい配色とリアルな画像の組み合わせが印象的だ。代表作『The Spell』は、愛らしいピンクの楕円の中に、編み物や椅子、昆虫のカットアウトがコラージュされている。 甘さだけではない、どこか不穏ささえ感じるRuth van Beekのアートワークは、見る者を不思議と惹きつける。

普遍的な楕円というシェイプと、コラージュという手法。彼女の作風を紐解くには、まず、なぜ表現方法としてコラージュを選ぶのかを知りたい。時代や用途が異なる写真を掛け合わせることで、違う意味が生まれるからだ。「いい質問ですね。その答えをどこまで遡ればいいか考えなくてはなりませんが、まず、私にとって写真はとても魅力的な表現です。学校でも写真を学びましたし、印刷物の画像をつねに集めていました。私自身の個人的な写真が収められた古いアルバムなど、大事にしている写真から始まって」アートアカデミー在学中に収集をスタート。自分の撮る写真より、雑誌やアルバムで見つけた画像の方が面白いと感じたのが理由だった。そのうち、画像を集めているだけでは満足できなくなった。

「イメージをコントロールしたくなり、画像を切り込み始めたんです。だんだん被写体を覆い隠すように進化し、イメージ全体を乗っ取るようになりました。でも、写真はつねに現実と繋がっている。その距離をできるだけ引き伸ばしたい。だから最近の作品では、写真をほとんど隠していることもあります。それでも、背景に何があるのかと好奇心がわく。鑑賞者はそのイメージを信じて、いろいろと想像をふくらます。それがコラージュの好きなところです」

『The Oldest Thing』は、彼女が15歳のときに亡くなった母が残した3冊のバインダーから始まる。バインダーには料理のレシピがたくさん記されていた。インデックスや手書きの文字、色褪せたページ。それらを見るたび、主婦であった母親が何を残したのかについて考えるようになった。家事の本やマニュアルブックを集めている理由の一つは、その影響が大きい。
「当時は無意識でしたが、そのバインダーを見たとき、実は母も同じことをしていたんだと気づいたんです。だから、私のこのマニュアルへの執着は母親譲りなんだなと納得した。私は一度も母を女として見てはいませんでした。忍耐強い主婦というイメージです。母から教わったのは、料理や編み物、ガーデニングなど古典的な家事。女性として母親として、私の人生とは違うと思った時期もありました。でも、母がまったく同じことをしていたと知り、見方が変わりました。私自身、母が亡くなった年齢をすでに超えたので、余計に同じなんだと感じるのかもしれません」

集めているマニュアル本は、主に1950年代から70年代に出版されたもの。彼女が生まれる1977年より前の時期になぜそこまで惹かれるのか。

「理由はいくつかあります。その一つは、まだ古本屋などで手に入りやすいから。それと、この手の本は家にあったので、よく覚えていますし、こういった本を通して世界について学んでいました。家事に限らず、考古学や美術に関する本など、あらゆるものが手に入りました。そしてこれらの本の写真は信じられないほど美しく、特に50年代は、写真への愛が満ちていました。あんなに綺麗にプリントできるなんて、大変な努力だったと思います。例えば、白黒写真のみの本とフルカラーのページを見比べると、後者は色の爆発みたいな感じさえします。50年代は、印刷物の画像が大きければ大きいほど受けたのではないでしょうか。今の私たちは綺麗な印刷が当たり前と思っているけれど……。だから 古い写真に惹かれるのかもしれません」 今まで何冊集め、現在は何冊保持しているか、見当もつかないという。歴史、ガーデニング、考古学、新聞、切り抜き。ジャンルを問わず、集め続けた。中でも、マニュアルや家事に関する書籍は、大事なコレクションとして、本棚には収まりきらないほど増え続けている。学生時代から始めた収集と写真。当時はポラロイドで静物やセルフポートレイト、ありとあらゆるものを撮影した。写真を学ぶ前には、絵画の教育も受け、たくさんの水彩画を描いている。それらが複合的に表現されたのが、現在の作風だ。

「絵の具を使い始めたとき、色をコントロールしたいと思っていて、実際それが楽しかったんです。あるとき、ハサミで絵の具を塗った紙をカットしてみた。なんとなく試してみたらハマった。そこからどんどん発展していったのですが、最初は1色しか必要なかったけれど、今は何を描くか、どう色を重ねるかといったことが重要になっています」

『The Spell』では100種類のピンクが使われている。くすんだ色味からベージュに近いトーンまで、細かな差で描き分けている。「初めてシルクスクリーンを使ったのですが、水彩絵の具と同じ効果をインクの層で表現するのは面白かった。印刷の中間という立ち位置も興味深かったです。また機会があれば、シルクスクリーンにも挑戦してみたいです」

そしてもうひとつ。彼女の作品に頻繁に登場する楕円形について。アディクトされたように、エッグシェイプが繰り返される。「とても直感的で人間的な形だと思うから魅了されるのかもしれません。色や塗装のテストをすると、いつもこの形になってしまうんです。簡単なスケッチでもそう。それで、この魅力ってなんだろう?と考えたのですが、卵や果物の形というか、熟しているというか、はっきりわからないところに魅力があります。何かが満ちている、生命に満ち溢ふれそうになっていることと関係があるというか。私の作品はただの紙ですが、平面的な命を吹き込むようにしています。そこに何かが満ちていると信じています。わからないけど、楕円形はそれを表しているんだと思う」

Ruth van Beek
オランダ生まれ。ヴィンテージの本や雑誌、ファウンドフォトを使ったユニークなコラージュ作品で知られるアーティスト。雑誌『The New York Times』『Foam』『It.s Nice That』などに取り上げられたほか、2013年には『British Journal of Photography』が選ぶベスト写真家20名に選出された。写真集に『TheHibernators』『TheArrangement』『TheLevitators』『How to Do the Flowers』などがある。2023年に発売されたファウンドフォト、コラージュ作品、ペインティングなどが収録された作品集『The Oldest Thing』が現在発売中。

INTERVIEW: Mika Koyanagi

Questionnaire

1

あなたは何をしている人ですか?

いろいろ作っています。

2

あなたの仕事で一番好きなことを教えて下さい。

  

3

今の仕事をする上できっかけになったことはなんですか?

  

4

これまで最も影響を受けた人物は誰ですか?
その理由も教えてください。

家族

5

あなたを3つの言葉で表すと?

  

6

今一番興味のあることは何ですか?

万物の力

7

これなしでは生きていけないもの3つ

フライパン、スプーンとお皿 

8

いつも必ず持ち歩いているものは?

紙とペンと携帯。文字とビジュアルでメモを取るために。

9

モーニングルーティンは?

オーディオブックやポッドキャストを聴きながら犬との長い散歩。

10

好きなカクテルもしくは飲み物は? 

朝のコーヒー 

11

時間を忘れるほど夢中になれることは?

過去の作品のアーカイブを見直し、整理したり、新しい組み合わせを考えたり。とにかく観ること。

12

あなたにとって最高の贅沢は?

長時間のシャワー 

13

刺激を受けるのはどんなとき?

なんの変哲もない昔の物を観たりするとき、例えば考古学博物館で、 面白い本を読んだり絵を観たりするときも。

14

一番好きな色は?

頬を赤らめたときの色 

15

好きな味は?

茄子

16

人生で最も重要な決断は何ですか?

誰も興味を示してくれなかった頃、それでも好きなことやり続け、追求すると決断したとき。

17

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

母になった時

18

最近読み終わった本は?

『ビヨンド・ブラック』ヒラリー・マンテル

19

好きな作家は誰ですか?

オルガ・トカルチュク

20

本棚にある本で好きなものを3つ教えてください。

『逃亡派』オルガ・トカルチュク
『琥珀の眼の兎』エドマンド・ドゥ・ヴァール
『白鯨』ハーマン・メルヴィル

21

今旅するならどこに行く?

日本 

22

行ってみたい国は?

アイスランド

23

お気に入りの宿は?

北オランダのワッデン海の近くに位置する、フローニンゲンにあるヴォンゲマという宿。 

24

最も印象に残っている場所は?

テキサス州マーファ 

25

あなたのホームはどこですか?

オランダのコーフ・アーン・デ・ザーン。建物はとても古く、もともと18世紀の時計職人の家だった。とても特別な場所。

26

最近よく聴いている音楽は?

『Sweet』ラナ・デル・レイ

27

好きなミュージシャンは?

ローリー・アンダーソン

28

どの曲ならずっと聴いていられる? 

『グッド』 モーフィン

29

好きな映画を3つ教えてください

『落穂拾い』アニエス・ヴァルダ
『グリズリーマン』ヴェルナー・ヘルツォーク
『マルコヴィッチの穴』 スパイク・ジョーンズ

30

最近観た映画で好きだったものは?

『人体の構造について』パラベル &キャステーヌ・テイラー

31

初対面の人に対して最初に目がいくポイントは? 

服の色

32

友達に会った時のあいさつは何?

hoi 

33

人から受けた最善のアドバイスは?

自分が一番好きな事をしなさい、そうすれば全てうまくいく。

34

寝る時に着るものはなんですか?

ニットの靴下

35

あなたのモットーは何ですか?

常に自分の直感を信じろ。

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