言語

cart

MASAYO
FUNAKOSHI
Chef ISSUE 1 2024 SS

「Farmoon」主宰・船越雅代は、Pratt Instituteで彫刻を専攻後、料理に表現の可能性を見だす。ニューヨークで料理を学び、世界中を旅しさまざまなレストランでキャリアを積んだ後、京都を拠点に活動する。料理家・船越雅代が考える食とは何か。彼女の発想力と表現者としてのルーツを探る。

京都・銀閣寺のほど近くの「Farmoon」は、足を踏み入れると天井吹き抜けの気持ち良い空間が広がる。もともとあった古民家を船越雅代とデザイナー・柳原照弘で作り上げた空間は船越が「円卓をおきたい」という一言から始まり、建物の枠をベースにあえて細かく測らず、キッチンの奥の幅やテーブルの大きさなど2人の感覚を頼りに決め、スプレーで印をつけ、のちに計測して図面を作成したんだそう。円卓にこだわった理由は、座る人みんなが視線を交わせてコミュニケーションが取れるからだ。小さい頃に円卓に慣れ親しんでいた船越は、中国滞在中どこのレストランや家庭に行っても「食事は円卓を囲む」スタイルで円卓の良さを再認識し、それらの経験をもとにベストな距離を導き、木工作家・高山英樹が古材を組み合わせて作られたものだ。夜は決まったメニューはなく、紹介制でお客さまを迎える一期一会のスタイル。
ゆったりと流れる時間が心地よい空間は、どこか異国の家に招かれたような非日常を覗かせ、自ずと特別感を演出してくれる場所。

幼い頃からアートが身近な環境だったことで、絵を描くことや物作りが好きだった彼女は、都立芸術高校の美術科に進み本格的にアートを学び始める。また、週末は父親の仕事関係のお客さまを海外から家に招くことが多く「母が日常とは違うごちそうを作り、みんなでワイワイと食卓を囲む空間」が好きだったんだそう。ここがいつしか彼女の「原風景」と呼ばれるものになるのだ。さらに母親の料理の手伝いだけでは物足りず、自宅近くの古本屋の軒先にある100円のかごから英語のレシピ本を購入して料理を作り、人にふるまう喜びを知る。大学は、ニューヨークにあるPratt Instituteで彫刻を専攻。大学では、「型」を取り「キャスティング」という方法で作品を制作。食材や食べ物を素材に選ぶことが多かったが、食をコンセプトにしたアートを表現することがもどかしくなり、料理を作り直接食べてもらいたいと本格的に料理の道へ。プロを育てることに特化した料理学校に進み、今でもメンター的存在だというマイケル・アンソニーと出会い、彼のもとでインターンとして本格的に働き始め有名レストランのキッチンで経験を積んだ。その後、渡仏しフレンチを学び、たくさんの国を旅してその土地に根付く料理を学び、オーストラリア船籍の客船のシェフ、バリの老舗ホテル「Tandjung Sari」のシェフを務め、2012年から拠点を京都に移す。今までの経験から得た味覚の情報をもとに異文化を融合する彼女の料理スタイルができあがったのだ。

彼女にとって料理を作るとはどういう感覚なのか。最初に「季節のこと、ここにある素材をどう組み合わせようか、今日はどんな客さんが来るのか」などを考えるのだという。彼女のスタイルは、1枚のお皿に多くの食材は使わず、お互いを高め合う2つの主役を決め、その2つが輝くよう脇役になるものを少しだけ添えるというシンプルなスタイル。「色、食感、味のバランスは考えるが一番は素材そのもの」だという。例えば「牡蠣と生の人参が合う」というような発想は、説明はできないが素材を見ているとひらめくのだという。さまざまな国の素材や調理法を知り尽くし、小さい頃から実験的に自分で勉強して作ったことで蓄積された知識を自分の中から引き出して料理を作る。さらにアート作品を制作していた頃の「素材選びと選んだ理由を常に考えていた」経験と重なる。料理を作ることは、「『媒介者』であり、生産者の思い、今の空気、季節、空間や場所、全部含めて料理という形で表現」する受け身の状態。彼女が新しい土地で料理するときも同じで、もっとも大事にしているフィールドワークや、文献を読みリサーチに時間をかけるが、実際に料理を作るときは意思や狙いは入れずに「その時の食材や季節や空気を取り入れて吐き出したもの」なのだと教えてくれた。

「料理をするとき他のことは考えないで動けるように同じものが同じところにあってほしい。所作も美しくありたい」と思うのは、祖母と母が茶道の先生をしていたことから自然と影響を受けている。美しい空間を演出し、季節を重んじ、お客さまを迎えてもてなすことそのものだ。食の表現者として最高の瞬間について尋ねると、料理を提供し、食べてもらい、その空間で時間を共有しているみんなの高揚した気持ちと笑顔が重なった瞬間の「共体験」だという。決して頻繁に体験できるわけではないが、その瞬間を感じたときは感動で身体が「ゾクッ」とすると教えてくれた。また、料理は香りがとても大事で、五感(もしくは六感)を使って楽しむものであり、人を幸せにするが、間違えば人を殺してしまうこともあるのだから、常に「生と死」を意識し真摯な気持ちで食と向き合っている。

好奇心に溢れた性格で過去に縛られず常に新しいことにチャレンジする彼女。「その場所にいて、その土地の食材を使いそこにある風景を作り最後にみんなでその料理をいただく」という風景を食で表現する『Edible Landscape (エディブルランドスケープ)』というインスタレーションをバリや奈良で開催するなど、アーティストとしての活動も精力的に行っている。最後にシグネチャー料理を聞くと、「今を食べる、今を香る、今を味わう」が彼女のモットーで、どんどん変化してしまうのだと。

インタビュー後に撮影させていただいたセミフレッドは、「梅の仁」を1年弱ウォッカに漬け込み、それを主役にしたデザート。「梅の仁」とは梅の実の種の中にある薄皮に包まれた白い実のこと。素朴な黒い器の中にメレンゲ、梅の花びら、クリーム、アーモンド、クランブルがバランスよく混ざり、サクサクした食感と見た目の美しさはもちろんだが、この空間でしか味わうことはできないのだと強く感じた。「梅が散り、その上にパラパラ雪が降っている」風景がイメージだと教えてくれた。美しいアート作品のようにも感じられるが、昔どこかで見たことがあるような感覚、旅先での記憶なのか、どこか懐かしい風景が目の前に広がった。

FARMOON

京都府京都市左京区白川東久保田町9茶楼(予約不要)金~日 11:00-16:00
Instagram:@masayofunakoshi,@farmoon_kyoto

PHOTOGRAPHY: Stefan Dotter
INTERVIEW: Reiko Ishii

Questionnaire

1

あなたは何をしている人ですか?

料理。そして人が食事をする為の空間と時間を創ること。 

2

あなたの仕事で一番好きなことを教えて下さい。

再現不可能性。

3

今の仕事をする上できっかけになったことはなんですか?

今を生きる、今を楽しむ。

4

これまで最も影響を受けた人物は誰ですか?
その理由も教えてください。

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
彼女は自分自身が空っぽの器になる事がとても大切な事だと教えてくれました。 

5

あなたを3つの言葉で表すと?

媒体、直感的、原始的。

6

今一番興味のあることは何ですか?

空間的思考。

7

これなしでは生きていけないもの3つ

仲間、プロジェクト、良い会話

8

いつも必ず持ち歩いているものは?

瑪瑙(メノウ)のカッサ

9

モーニングルーティンは?

ストレッチと自分のお茶セレクションから温かいお茶を飲んで、9時になったら魚屋さんに電話。

10

好きなカクテルもしくは飲み物は?

杉の木から出るお水。建築家の友人が建築用の杉の木を乾燥させる過程で杉の木からお水を摂取するシステムを作ってくれた。

11

時間を忘れるほど夢中になれることは?

想像の中で材料をプロファイリングしたりマッチングすること。

12

あなたにとって最高の贅沢は?

水に浮かぶこと。重力を感じないこと。 

13

刺激を受けるのはどんなとき?

それぞれの知識や思考を共有することがお互いのクリエイティビティを刺激し合い、素晴らしい会話ができたとき。

14

一番好きな色は?

マジェンタ 

15

好きな味は?

初春のほんのりとした苦味

16

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

自分のキャリアを彫刻から料理に変えたこと。

17

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

パプアニューギニアの海で1人で泳いだこと。ただ青くて何もないところにいた。

18

最近読み終わった本は?

『空想の建築史』土居義岳

19

好きな作家は誰ですか?

辺見 庸

20

本棚にある本で好きなものを3つ教えてください。

『祭祀習俗事典』柳田国男
『匂いの帝王』チャンドラー・バール
『熊楠-生命と霊性』安藤礼二

21

今旅するならどこに行く?

中央アジア

22

行ってみたい国は?

行ったことのない国 

23

お気に入りの宿は?

ヴィラナガ、友人アスミンのバリ島にある別荘 

24

最も印象に残っている場所は?

一つに選べない。 

25

あなたのホームはどこですか?

ニュートラルで変革的なFarmoon。

26

最近よく聴いている音楽は?

古い映画のサウンドトラック

27

好きなミュージシャンは?

ニーナ・シモン

28

どの曲ならずっと聴いていられる? 

バッハ

29

好きな映画を3つ教えてください

『カメレオンマン』ウッディ・アレン
『バベット晩餐会』ガブリエル・アクセル
『タンポポ』伊丹十三

30

最近観た映画で好きだったものは?

『デューン砂の惑星 パート2』ドゥニ・ビルヌーブ

31

初対面の人に対して最初に目がいくポイントは? 

32

友達に会った時のあいさつは何?

Heyyyy!

33

人から受けた最善のアドバイスは?

考えるな。感じろ(笑)

34

寝る時に着るものはなんですか?

Black Craneのガーゼのワンピース

35

あなたのモットーは何ですか?

水になれ。ブルース・リーが大好きなんだと思う!

podium studio

Biannual style magazine introducing fashion, art,
culture and travel with an original perspective.

instagram