言語

cart

KOHEI ODA
Plant Shop Owner ISSUE 2 2024 AW

「叢」の創業者・小田康平は、過去の経験から切花のごく限られた時間での表現には限界があると感じ、本来の植物の良さを伝えたいと土付きの生きている植物に表現の方向性を変える。市場には流通しない同じ種類の植物でも形に個性があるもの、意図せずにできた見たことのないサボテン・多肉植物と出合い「叢」のスタイルを見出だす。「人を喜ばせたい、感動させたい」という視点から唯一無二の価値を創り出す彼の植物愛とサボテンへの執着について話を聞いた。

2024年1月に広島市西区竜王町へ移転しリニューアルした「叢」Hiroshima本店は、入り口に堂々と構えた錆びた鉄板(コールテン鋼)が、どこか違う世界に足を踏み入れるのだという心持ちにさせられる。まさにテーマパークでゲートを潜るときの緊張感とワクワク感、日常から非日常への境界線だ。それは、小田康平が考える力強く生きている植物の魅力を存分に伝えるため、見せる側も本気でお迎えするが、見てくれるお客さまにも神経を研ぎ澄ました状態で植物を楽しんでほしいという思いからだ。中は真っ白な空間に一つ一つ丁寧に置かれた個性的なサボテンたちのステージが広がる。「叢」でしか味わえない世界観を存分に堪能できる空間だ。

「生きている植物には過去・現在・未来がある」。これこそが力強く生きている植物の一番の魅力だという。新しい枝や葉が出ること、花が咲くこと、これらの生長する姿を楽しむことができ、さらにはここに至るまでのストーリーを重んじている。ある場所に棚や空間があるとき、人はそこに何かを飾りたくなる。花瓶を置くのか、ランプを置くのか、絵や写真を置くのか。その選択肢の中に「叢」のサボテンがあり、その強力なライバルに勝たなくてはいけないというのだ。だからこそ器にもこだわりを見せる。「サボテンをパッと見た時、半分は器に意識がいくでしょ?」。そのため器にも力があり洗練されたものが好ましい。「叢」を立ち上げた頃、自慢のサボテンと一緒に現代陶芸の巨匠・鯉江良二のもとを訪ね、作品(サボテン)が認められて鉢を作ってもらったという逸話がある。当時の陶芸界では、器に穴を開けることは論外だったそうで、トップの先生が鉢を製作したことで話題になり、そのコラボレーションをきっかけにイベントを開催。それ以降、陶芸界で鉢を作ることに抵抗のある人は少なくなったに違いない。今でもたくさんの作家たちとコラボレーションをしているが、小田は鉢にはあくまでもサボテンを引き立たせる色や形、柄は素朴なものを求め植物の成長を妨げない、健康に生きるために必要最低限の容量を満たすものを考えて合わせている。

「叢」のサボテンのストーリーを見せる手法は4つある。1つ目は、「木化(もっか)」。 根本が茶色くなっているもので枯れているように見えるため園芸界では価値が低いとされていた。全体を美しい緑色に保つ為に十分に水を与えるのは、園芸界での当たり前。通常厳しい環境化で育つサボテンはそれが困難なため、あえて下を木化させ、光合成の量を抑え表皮を硬くすることで倒れないようにしている。外側が茶色くなっていても内側は元気だからより丈夫に生きることができる。それが自然の姿なのだ。何年も耐え抜いて生きた姿が、価値が低くなるわけはなく、むしろ価値が高いという見せ方だ。2つ目は、「接ぎ木」。 植物は、生長の早い品種に生長の遅い品種を活着させることで単純に生長が早まる。貴重な植物を元気に大きくするための手法だ。「全く違うサボテン同志を掛け合わせて組み合わせの妙を楽しむ」。これは、「叢」の考え方だが、今までの園芸界ではその考え方に価値はなかった。違う生き物を合わせてそれが新しい命に繋がる。また、いつもは土でシルエットが隠れている部分をあえて見せるなど自由な発想で個性溢れるものを作る。3つ目は、「親木」。ホームセンターなどでよく見かける均一な大きさのサボテンは、種を蒔いて作っているパターンもあるが、多くはある程度の長さで先を切り、それを挿木して作る。それを繰り返すと同じものが簡単に大量生産できるからだ。その過程でいつも切られてばかりいる切り口だらけの個体が親木なのだ。切られた親木は、花を咲かせるためにがんばって新芽を出すがまた切られてしまう。子株を切り取られ続けた親木には無数の傷口が残り、歪な形になる。そこに重ねてきた時間の重みがあり、その姿に刻まれている。まさに「いい顔している」という言葉がしっくりくる。


4つ目は、「ベタ斑」「提灯」。突然変異で色素が抜けて色が変化したもの。園芸に特別な知識のない私たちから見れば単純に綺麗で可愛い。色素が全部抜けてしまったものは、 園芸的には価値が最も低いものになってしまう。このような色素が全部抜けてしまったものは根が出せないのでうまく育たない。それを接ぎ木することで、台木のサボテンの根を借りて生きることができるようになる。日本におけるサボテンの歴史はとても古く、300年前の江戸時代中期からサボテンは育てられていたのだという。歴史ある日本の園芸界にはこれまでに培われた方向性があり、教科書、ルールがある。しかし、園芸の教科書やルールに縛られず、今まで園芸界では価値のないものとされていた不恰好なサボテンたちに目を向け新たな価値を生み出す彼にとっての「いい顔している植物」とはどんな顔なのか。いわゆる「いい顔」とは美しく整った“美人”のことで、「いい顔してる」は少しニ ュアンスが違うのだという。それは、花を咲かせることに必死で、そのためにひび割れを起こしたり、繰り返し切られても一生懸命生きる親木だったり、水不足で捻れたりするサボテンたち、また、5億年前から地球に存在し、食物連鎖の一番下で酸素を作り縁の下の力持ちとして支えてくれている植物のこと。過去の痛みも含め、今があるサボテンたちに尊敬の念を込めて「いい顔してる」と言うのだと。

彼の自由な発想やアイディアはどこで培われたのだろうか?「僕は、大学卒業後1年間ヨーロッパを旅した経験があるんです」。何も目的を持たず、観光もせず、名物料理も食べずにただ周っていたとき、自分を見つめ直し、深く考える時間の中で、「いつも答えは自分の中にある」という考えに至り、現在のスタイルのヒントになっているのだという。最後にこれから「叢」について聞くと、「ここのお店は来やすい場所ではない。好きな人がわざわざ来てくれる場所。僕たちのことを全く知らない人にも自分たちが作っている植物の面白さを知って欲しい」と言う。また何の先入観もなく「叢」を感じてもらえる場所、そして日常の中で植物の魅力を自由に楽しめる場所、つまり「公園を作りたい!」と。ユニークな形をした木や切り株の話などワクワクする構想をいくつか教えてくれた。彼の植物への愛情と興味、そして溢れ出る楽しいアイディアは、尽きることを知らない。

叢 HIROSHIMA

広島県広島市西区竜王町7-22

営業時間  12:00 – 18:00

定休日 火曜日

PHOTOGRAPHY: Yasutomo Ebisu

INTERVIEW & TEXT: Reiko Ishii

Questionnaire

1

あなたは何をしている人ですか?

植物屋店主

2

あなたの仕事で一番好きなことを教えて下さい。

いつも人や植物の新しい出会いがあること。

3

今の仕事をする上できっかけになったことはなんですか?

パリで見た花の装飾。

4

これまで最も影響を受けた人物は誰ですか?
その理由も教えてください。

佐藤辰美 / アートコレクター

ものの捉え方、感じ方を教えてもらいました。

5

あなたを3つの言葉で表すと?

一生懸命、素人、植物

6

あなたを上げてくれるものは?

発見、ひらめき

7

今一番興味のあることは何ですか?

接ぎ木

8

これなしでは生きていけないもの3つ

ハイエース、刺激、従業員

9

いつも必ず持ち歩いているものは?

植物を探す目。

10

モーニングルーティンは?

ウォーキング

11

好きな飲み物は?

ぬるい水

12

時間を忘れるほど夢中になれることは?

植物探し 

13

あなたにとって最高の贅沢は?

仕事ほっぽらかして植物を見ること。

14

刺激を受けるのはどんなとき?

好きなデザインに出会えたとき。

15

一番好きな色は?

白緑色

16

好きな味は?

エスニック

17

人生で最も重要な決断は何ですか?

会社を起こしたとき。

18

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

ハーフドームを見たとき。

19

最近読み終わった本は?

『植物の形には意味がある』 園池公毅

20

好きな作家は誰ですか?

山崎ナオコーラ

21

本棚にある本で好きなものを3つ教えてください。

『シャボテン幻想』龍膽寺 雄
『ひとりよがりのものさし』坂田和實

22

今旅するならどこに行く?

チリ

23

行ってみたい国は?

チリ

24

最も印象に残っている場所は?

マドリード

25

子供のころからずっと好きで続けていることはありますか?

ものに名前をつけること。

26

最近よく聴いている音楽は?


27

好きなミュージシャンは?


28

どの曲ならずっと聴いていられる? 


29

好きな映画を3つ教えてください

『燃えよドラゴン』 ロバート・クローズ

30

最近観た映画で好きだったものは?


31

初対面の人に対して最初に目がいくポイントは? 

32

記憶に残っている香りは?

古い本を開いた時の匂い。

33

人から受けた最善のアドバイスは?

商売は牛のよだれ。

34

寝る時に着るものはなんですか?

Tシャツ 短パン

35

あなたのモットーは何ですか?

感謝と謙虚

podium studio

Biannual style magazine introducing fashion, art,
culture and travel with an original perspective.

instagram