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IGNASI
MONREAL
Artist ISSUE 4 2026 SS

誰にも見られてないかのように描く
スペイン人アーティスト、イグナシ・モンレアルは、消費され続けることに応え続けてきたキャリアに、終止符を打つ時がきた。それをやめた時、何が起こるのか? イグナシ・モンレアル
は、今、Instagramから距離を置いている。少なくとも、自分でコントロールできるかぎは。生まれながらに拡散される性を持つ、絵を描く35歳のスペイン人アーティストは、現在、ソーシャルメディアから距離を置くデトックス期間中だ。とはいえ、2026年という時代に生きるアーティストにとって、このアプリを完全に遠ざけることは難しい。最近の投稿のひとつは、マドリードにある自身のドーム型住宅。建築家ギジェルモ・サントマとのコラボレーションによって、内装を金色に塗り上げたその空間は、『Architectural Digest』の表紙を飾ったため、グリッドに載せないわけにはいかない。その投稿をアップして、すぐに携帯の電源を切った。

「Instagramを見ないようにしてから、自分の世界はものすごく小さくなった。でも、それと同時に、ずっと大きくもなった気がする」と言う。「携帯を見ないでいると、居心地がいい」。画面にあふれる「いいね」やフォローの通知。その高揚感から、今は意識的に距離を取ろうとしている。「依存しているものを取り除いてみて初めて、本当の自分が見えてくる。僕にとってソーシャルメディアは、まさにそのひとつだった」とはいえ、モンレアルは家を買っては内装を金色に塗るような生活を繰り返しているわけではない。半ば休眠状態にある彼のInstagramに並ぶ作品たちは、その表現の幅広さを雄弁に物語っている。ゲイの出会い系アプリ時代の覗き見的な視線を描いた絵画。実在のビデオカメラのモニターに描かれた、腹筋が割れた男性がオーラルセックスを受けているもの。MacBookの画面に映るヌードのセルフィー。そこにはしばしば、どこか、やんちゃさが漂う。風を吹きかけてキャンドルの火を消す、完璧に整った裸のヒップ。一方で、空を主題にした作品もある。炎をまとい咆哮する雲が谷間に浮かぶ光景。バシリカのドームがロケットのように空へと打ち上がる場面。ポルノグラフィックなモチーフからシュルレアリスム、さらには食べかけの皿に至るまで。そのすべてに、古典絵画を思わせる宗教的な筆致と、どこか祈りにも似た気品と繊細さが宿っている。

1990年にバルセロナで生まれたモンレアルは、クレヨンを握れるようになった頃から絵を描いていたという。「証拠はないけれど、母によると、2歳の頃から1992年バルセロナ五輪のマスコットのコビーを描いていたらしい」。オレンジ色のシープドッグ、カタルーニャを代表するイラストレーター、ハビエル・マリスカルが手がけたキャラクターだ。
古典的な絵画とデッサンの訓練を受けながらも、自分に本当の才能があるのだと意識するようになったのは、周囲の反応がきっかけだった。「自分では、その側面をまったく真剣に受け止めていなかった。子供の頃から続けている、ただのくだらない趣味だとあまり気にしていなかった」。そう語る彼にとって、評価は周囲からやってきたのだ。「僕より先に、世界のほうが気づいて、あぁ、これはちゃんと向き合うべきことなのかもしれないと」
私たちが会ったのは、六本木の南にあるアーティスト・レジデンス「Epazabu」。 2025年の終わりに、モンレアルが制作拠点として滞在していた場所だ。大きな窓の向こうには深い緑の常緑樹が揺れ、静かで広々とした空間にやわらかな光が差し込む。誰にも邪魔されることなく、制作に没頭できる穏やかな環境だ。

レジデンスの一環として、彼は2つの巨大なロールダウン式壁画を制作した。キッチンには、ピンクとグリーンが滝のように流れ落ちるカーテン状の作品。そしてもうひとつは、ここで暮らす巨大でふわふわの白い秋田犬「ハッピー」のポートレートだ。さらに、食べかけの料理やソースで艶めく食器を描いたシリーズ《Plats Bruts》(汚れた皿)も展示されている。発表と同時にアイコン的存在となったこのシリーズ作品は、彼の視線の鋭さとユーモアを象徴している。そして、制作途中の作品もある。テーブルの上にはスケッチブックが何冊も積まれ、そのひとつには自身の歯をクローズアップで描かれた絵。別のページには、深淵のクレーターを漫画的なタッチで三連画にしたドローイングがあり、その上には「Silencio」という文字が記されている。周囲には、東京で3Dプリントしたという自身の小さなフィギュアが散らばっている。後ろに撫でつけた栗色の髪、ローマ風の鼻筋、黒のスポーツウェア姿、さまざまなポーズの“ミニ・モンレアル”が、小さな軍隊のように並んでいる。
「日本に来るたびに、創作への関心がリセットされる。あるいは、逆に確かなものになる。新鮮な空気を取り込むための新しい窓が開かれるんだ」と彼は言う。日本への興味は、テレビから始まった。バルセロナで育った彼は、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を観て育ち、そこから新しい表現の世界に触れたという。「不思議なことに、90年代のカタロニア国営テレビの誰かが、アニメを大量に放送するのは名案だと思いついたらしく、ただ、子供向けに問題がないか確認しなかったため、午後の時間帯に普通に『エヴァンゲリオン』が流れていた」

ロンドンでアシスタント・アートディレクターとして経験を積んだ後、彼に転機が訪れたのは、グッチからの一通のメールだった。2018年春夏キャンペーンのためにイタリアのメゾンと組み、当時のクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレによるバロック調の装いをまとったキャラクラーたちを描いた、シュルレアリスム風のフレスコ画を制作。スタジオジブリの幻想性、現代ファッション、そしてギリシャ・ローマ神話のモチーフを融合させたその世界観は、彼にとって初の大規模なコミッションとなり、デジタル空間を通じて一気に注目を集めることになった。

潤沢な予算のコミッションが次々と舞い込み、ソーシャルメディア上での認知も急速に拡大していった。外から見れば、まさに順風満帆。ブランドにも利益をもたらし、自分も稼いだ。それでも、何か噛み合っていなかった。「すごく不幸だった。まるで自分がプリンターになったような気分だった」と話す。「 当時はただ本当に実験だけをしていた段階で、何年もそこから抜け出せなかった。 成功には依存性がある。名声も、承認欲求も、依存性がある。それが新たな依存を生んで、ドーパミンを保つため、さらに新しい依存を生み出していく」
それからほぼ10年。言葉を濁しながらも“暗い時期”を経て、モンレアルは今、より地に足をつけている。成功への渇望も形を変えた。「承認されたい気持ちはもちろんある。でも、あの頃のような名声はもう求めていない。今欲しいのは、リサーチと探求を続けられる、持続可能なワークフローの構築だ」。それは、自身の技術と才能を中心に据えた、新しい価値基準を組み立て直すプロセスでもある。「クライアントは卵を買うことができる。でも、僕はニワトリなんだ」と彼は笑う。

初期の商業的成功がもたらした空虚さは、彼をより深い自問へと向かわせた。「ここ2、3年ずっと、自分に問い続けていた。もし誰にも見られていなかったら、僕は何を描くだろうと。でも答えが出なかった」。そのひとつの答えが、ブラックホールを描いた作品たち。あの「Silencio」のスケッチだ。「スケッチブックを見返すと、穴ばかり描いていることに気づいた。“虚無”に惹かれていると気づいた。これまでのキャリアで、僕はずっと“何か”を描いてきた。依頼されて描くにせよ、自発的に描くにせよ、形や物、人、物語といった“表象”に強く意識を向けていた。だから今度は、何も描かないことを試みた」このプロジェクトの集大成として、昨年イタリアで制作した、縦2メートル×横5メートルにも及ぶ巨大な“穴”だ。薄暗く、大きく口を開けたクレーターは、まるで部屋ごと飲み込んでしまうかのような圧倒的な存在感を放っている。「初めて、特定の“何か”を描こうとしなかった。描こうとしたのは“感情”そのものだった」と彼は語る。「この10年、僕の作品はずっと、スクリーンに表示されることを前提に、ソーシャルメディアに最適化されるような形で作られてきた。だから今回は“沈黙”を描きたかった。そうして、これが生まれた」
とりわけオンライン上の観客が抱く、終わりのない渇望。その視線が消えた先に、あのブラックホールの向こう側には何があるのか。その答えを見つけるために、彼はこれからも問い続けるつもりだという。もし誰も見ていなかったら、自分は何を描くのか、と。「1つの答えに辿り着くことはないと思う。でも、この問いを持ち続けること自体が大事なのだ」

PHOTOGRAPHY: Aya Sekine

INTERVIEW: Ashley Ogawa Clarke

Questionnaire

1

あなたは何をしている人ですか?

主に絵を描いています。

2

あなたの仕事で一番好きなことを教えてください。

自分の想像を超えるものを生み出せたとき。

3

今の仕事をするきっかけになったことは何ですか?

それは、もともとそうなる運命だったのです。

4

これまで最も影響を受けた人物は誰ですか?

友人たち。

5

あなたを3つの言葉で表すと?

僕、僕自身、そして僕。

6

あなたを上げてくれるものは?

自分の想像を超えるものを生み出せたとき。

7

今一番興味のあることは何ですか?

温度と重力。

8

これなしでは生きていけないもの3つ

空気、水、そして食べ物。

9

いつも必ず持ち歩いているものは?

10

モーニングルーティンは?

文章を書いて、朝食を食べ、運動をする。

11

インスピレーションが降りてくるときは?

受け取る準備ができているとき。

12

時間を忘れるほど夢中になれることは?

絵を描いているとき。

13

あなたにとって最高の贅沢は?

朝食に出てくる切りたてのフルーツ。

14

あなたはどんな時に渇望を感じますか? それは何にでしょうか?

ファミリーマートの前を通ると、フライドチキンがどうしても食べたくなる。

15

一番好きな色は?

まだ決めていません。

16

逆境に直面したときどのように向き合いますか?

一歩ずつ進む。

17

人生で最も重要な決断は何ですか?

自分の直感に従うこと。

18

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

最近、富士山で日の出を見たこと。

19

五感のうち、あなたの欲望をもっとも刺激するのはどれですか?

視覚

20

好きな作家は誰ですか?

最近は、マルグリット・ユルスナールに夢中です。

21

本棚にある本で好きなものを3 つ教えてください。

五十嵐大介の『海獣の子供』も気に入っています。

22

今旅するならどこに行く?

ちょうど今、スペインへ戻る飛行機に乗るところです。

23

最近、心を動かされた瞬間は?

自分の夢

24

最も印象に残っている場所は?

日本

25

子供のころからずっと好きで続けていることはありますか?

呼吸

26

最近よく聴いている音楽は?

静けさを楽しんでいます。

27

好きなミュージシャンは?

ロザリア

28

これだけはゆずれないことは?

イカとタコは食べません。

29

好きな映画を3つ教えてください。

ジブリ作品ならどれでも。

30

好きな食べ物を3つ教えてください。

スープ、トマト、そしてスペイン産ハム。

31

初対面の人に対して最初に目がいくポイントは? 

髪の毛

32

記憶に残っている香りは?

焼き菓子

33

人から受けた最善のアドバイスは?

毎朝、ベッドを整えること。

34

寝る時に着るものは何ですか?

それは私とシーツだけの秘密です。

35

大切にしている価値観はなんですか?

礼儀と敬意

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