
book select
by flotsam
Bookstore owner
ISSUE 2 2024 AW
東京・代田橋にある沖縄タウンの近く、平日でも賑わう書店が、flotsam books(フロットサムブックス)だ。「お客さんは写真家や、写真を学んでいる学生が多い」というオーナーの小林孝行さんがオンライン書店を開いたのが2010年。その後、友人である写真家、山谷佑介さんの展示場所として、4年前に現在の地でフィジカルな店舗を持つこととなった。「ノリでやろうか、という感じで始めました」という店内には、「新しいものが好き。評価が定まっていないものが好き」と言う小林さんの目で選ばれた書籍や写真集が並ぶ。店頭の書物一冊一冊について質問すれば、愛情の詰まった説明が返ってくる。そんな会話を楽しみに訪れるファンも多い。「昔から駄菓子屋に憧れていて」というのも頷ける、気取りゼロ、居心地のいいブックストアだ。今回のテーマである“Obsession”な書籍を7点セレクトしてもらった。

The Waiting Game II
チェマ・サルバンス
スペインの写真家、チェマ・サルバンスの写真集。ページをめくるたびに出てくるのは、地中海沿岸で釣りをしている人々。「『THE WAITING GAME』という作品は、全部で3作目まで出ています。この本は2作目。個人的には1作目が非常に好きで、同じロケーションで客を待っている売春婦を撮影しています。被写体に気づかれないよう、サルバンスは測量技師の格好をして撮影しているとか。この作品では『釣り』でほのぼのとした感じに、3作目は『主人を待っている犬』ばかりを収めているんですが、着眼点がユニークですよね」

The Pillar
スティーブン・ギル
「自宅近くの道に立っている柱に定点観測カメラをつけて、その柱に来る鳥をずっと撮っているシリーズなのですが、多分鳥を撮るというよりは本当にただ柱を撮っているんだと思うんです。なんでこの柱をずっと撮っていたんだろうという感じがして、興味深いですよね。スティーブン・ギルという作家自体はずっと実験的な作品を撮り続けていて。世界的にエナジードリンクが流行り始めた頃、現像液の中にエナジードリンクを加えてプリントしてみるとか、一度土に埋めた写真を取り出した作品とか、だいたいいつも面白いんです」

Workbooks 1984 – 2024
ナイジェル・シャフラン
イギリス人写真家、ナイジェル・シャフランが、1984年から2024年にかけて40年分のワークブックをまとめた作品集。「シャフランは、2019年秋冬シーズンの『ジルサンダー』のキャンペーン撮影など、いまものすごく注目が高まっている作家です。40年間というすごく長い期間もさることながら、いわゆるスケッチブックみたいなものは、基本はパソコン作業になっている今の作家にはほぼないもの。制作過程はつねにPC上で更新されて、完成品しか発表されない。そうすると、作家のアイデアブックみたいなものが残らなくなってしまうんですよね。シャフラン世代やいま活躍中の作家ぐらいがギリギリで、デジタル世代になるとたぶんなくなる。より貴重な資料になると思います。こういうことがやりたかったのかとわかる気がしますし、やっぱりヴィジュアルがものすごくかっこいいので、見ているだけで興味深い。あと、個人的にこの版元であるロンドンの出版社LOOSE JOINTSが好きなんですよね」

Parallel Encyclopedia 1 (Reprint)
バティア・スーター 作品集
「アムステルダムを拠点とするスイス人アーティスト、バティア・スーターは、2022年秋冬シーズンに『ジルサンダー』のキャンペーンを担当。リサーチを極限までやったらこうなるんじゃないかという一冊です。百科事典と銘打って、あらゆる雑誌、古書からイメージを集めてきて再構成してまとめる。その集めているイメージもすごくかっこいい。精度が高いイメージを探してくるのは本当にすごいと思うので、美大の学生にも見てもらいたいです。引用元も全部調べて、最後に書いてあるのも事典らしい。この百科事典シリーズは第1巻と第2巻が出ていて、この1巻だけ最近再販されました」

Sleeping State of Being: Creatures of Night and Day
サラ・スコルガン・テイゲン
ノルウェーを拠点に活動するヴィジュアル・アーティスト、サラ・スコルガン・テイゲンが長年描き溜めているスケッチブックが基となった作品集。「1つ前の本も自分のスケッチブックを復刻したような作品集でしたが、作りがすごく面白い。写真にニスを塗って、貼り付けたような感じになっていたりと、スケッチブックを忠実に再現しています。作家自身がすごくスケッチブックを大切にしていて、自分の内面世界と外側の世界を繋ぐ役割を担っていると言っていた気がします」

La Lecture des Pierres
ロジェ・カイヨワ
文芸批評家、社会学者、哲学者であるロジェ・カイヨワが蒐集した美しい鉱物の写真集。「カイヨワは『戦争論』という本を書いている人なんですけど、鉱物も集めていて。2015年にメゾン・エルメスの展覧会でも紹介されたので日本語版も出ているんですが、フランス語版がハードカバーで本としてもかっこいい。集めている石も面白い。うちに来るお客さんは、自分で何かを作っている人が多いのですが、そういう人たちは作為的じゃないものを求める場合が多い。作為があからさまに見えるのは敬遠するので、自分では作れないものに惹かれるし、人気がありますね。純粋に綺麗なのもいい」

Bannkörbe
アラジン・ボリオーリ
チャームバスケットの意味を持つ“Bannkörbe”は、17世紀から20世紀初頭にかけてドイツ北部で行われていた独特の養蜂技術。養蜂箱にまつわる作品集があるスイス人アーティスト、アラジン・ボリオーリがリサーチを経て完成させた巣箱だらけの写真集。「巣箱に取り付けられた奇妙なマスクは、気持ち悪いんだか、可愛いんだか、ちょっとゆるキャラみたいな顔もいて、見ているだけで楽しい。これも執着ではないかなと思いながら選びました」
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PHOTOGRAPHY: Masami Sano
TEXT: Mika Koyanagi