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A.A.Murakami
Artist ISSUE 4 2026 SS

暗闇の中、樹木のような彫刻から白いバブルが落下し、水面を弾むように転がり、消える。そのさまを観客たちはずっと眺めていた。3月29日まで森美術館で開催されていた「六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」にて、展示されていたインスタレーション“水中の月 The Moon Underwater” (P.116)は、A.A.Murakamiが理念として掲げる「エフェメラル・テック(儚い技術)」を体現した作品だ。

イギリスで建築を学んだ村上あずさと、ファインアートを学んだアレキサンダー・グローブス。同窓という関係で、ユニットを組むことになった二人が同作のアイデアを得たのは2010年。だが、バブルの仕組みを理解し、空気を入れて大きくする方法を開発するには多くの試行錯誤を繰り返し、実現するのに7年を要した。また、今回、オペレーションや管理の部分で初めてAIを使用している。
「私たちの活動は、新しい素材や面白い素材を求めて世界中を旅するところから始まっているんです。テクノロジーのバックグラウンドがあるわけではないので、私たちから見るテクノロジーは、自分たちが作りたい現象を助けるために使う形です」と村上は話す。プールの水面を凪の状態にするため、またバブルが膜を作らず蒸気だけになった際はマシーンに伝える。バブルが水面に溜まりすぎた時はバブル作成を休ませる。そういった制御にAIを活用している。

マテリアルへの興味は、貝の模様をアルゴリズムに変換し、グラフィックに落とし込んだ作品(P.118) にも見て取れる。インスピレーション源は、毎日飲む貝の味噌汁だというから驚きだ。また、ネオン管に特殊なガスを注入し、弱い電圧を流すことで鈴虫のような音と変則的な線を生む作品 (P.112)は、当時住んでいたニューヨークで魅せられたネオンがヒントになった。日常にあるマテリアルに着目しつつも、なぜテクノロジーをアートに取り入れるのだろうか。
「自然現象を再現し、それらをまるで生きているかのように自律的に存在させたいからです。つまり、そうした効果を再現するためにテクノロジーが必要なのです。私たちはシャボン玉やフォグリング、プラズマ、巨大な泡など、さまざまなものを使って表現しています。人間が簡単にできることを自動化すると、そこには何か面白いことが起こります。機械で泡を作るのと、人の手で作るのとでは、まったく違う感覚がある。だからこそ私たちはテクノロジーを使うのだと思います」とグローブスは教えてくれた。

今作のように体験するインスタレーションを作るようになったのは、2017年から。自主プロジェクトを制作していた頃は、クライアントがいなかったため、作品発表は基本的にオンライン上。当時評価を集めていたのは映像だった。その後、美術館から展示のオファーが来るように。転換点は、映像制作からインスタレーション制作へ移ったことだ。

グローブスはこう振り返る。「それまでは 『モノ(オブジェクト)』ベースだったのが、『体験』ベースへと変わったんです。以前のプロジェクトは、基本的にすべて自分たちで立ち上げたものでした。ですが、ミラノ・サローネにCOSと協働で参加する機会があり、1週間だけの開催期間だからこそ、人々に“記憶”を残したいと。その状況に対して自分たちにできるベストを尽くそうと考え、インスタレーションを制作しました。その後、同じようなタイプの機会が増えていきました」
村上は、「こんなにモノがあふれているのに、また何かモノを作ることに違和感を抱き始め、その瞬間に記憶に残る体験にフォーカスしたい」と考えたのだ。「本質的な関心は変わっていません。現実の可能性をどこまで押し広げられるかということにつねに興味があります。いつも『シネマティックな世界』を考えていますね。“水中の月”もとてもシネマティック。観客は、バブルが水面に落ちて弾む様子を、強い集中力でじっと見つめている。とても没入感があります。他の制作と比べても、非常に体験的な作品になった」とグローブス。

物語性のあるシネマティックな体験と、テクノロジーは相反するようにも思えるが、グローブスはさらにこう語る。「私たちが目指しているのは『自然とテクノロジーの調和』を実現すること。テクノロジーを破壊的な力として見るのではなく、自然を活かし、自然の美しさを増幅させるために使う。そして、日本的な感性でいう『もののあわれ』のような感覚――喜びと哀しみが混ざり合う感覚――を大切にしたい。なぜ哀しみは私たちを惹きつけ、どこか心地よいものにも感じられるのか。それはきっと、哀しみが『意味』を感じさせるからなのだと思います。つまり、『悲しい』と感じるのは、それが自分にとって意味のあるものだったから、ということですよね。そしてその感覚は、とても豊かな体験なんです。だから私たちは、ある意味で『一時的で、やがて消えてしまうもの』を扱う作品に強い関心がある。普段テクノロジーと接するとき、私たちはそれが別の次元に存在していると、意識的にも無意識的にも感じています。それはデジタルで、情報で、無形で、そして“死なない”ものです。止めることもできるし、巻き戻すこともできる。10年後に見返しても変わらない。変わるのは自分だけです。だからこそ、どこかで深い結びつきを感じにくいのだと思います。一方で、自然を体験しているときは違う。目の前の花が今まさに咲いているけれど、やがて散ってしまうことを私たちは知っています。そして自分自身も、宇宙という壮大な時間の中ではほんの一瞬の存在にすぎない。その『二度と戻らない瞬間』を共有しているという感覚がある。その感覚はとても強く、テクノロジーや、アートの中ですらしばしば欠けているものだと思います。だからこそ、私たちはそれを探求したいのです。

もっと大きな視点で見れば、すべては一時的です。毎日見上げている月でさえも、常に変化し、過ぎ去っていく存在なのです。海の消失や種の絶滅も、その大きな流れの一部です。宇宙において唯一安定しているのは『運動』だ、とキネティック・アーティストのジャン・ティンゲリーは言いました。すべては常に動いている。まさにその通り。この『すべてが移ろい続けている』という感覚そのものが、私たちにとって探求すべきテーマなのです」テクノロジーやAIに対する向き合い方についても、グローブスはこう教えてくれた。「歴史を通して、テクノロジーは常に『私たちは何者なのか』『人間とは何か』という問いを映し出す鏡のような役割を果たしてきました。今、人工知能について考えると、『意識とは何か』『知性とは何か』という根源的な問いに向き合わされますよね。たとえば、『AIは意識を持っているわけではなく、ただ次の単語を予測しているだけだ』と言う人もいます。でも一方で、『人間の思考も、実はそれに近いのではないか』と考える人もいる。私たち自身も、これから何を言うかを完全に把握しているわけではなく、ある意味で一語ずつ紡いでいるだけかもしれない、と。そうした視点は、自分たちの存在を改めて見つめ直すきっかけになります。だからこそ、私たちはテクノロジーを使ってアートを作りながら、『存在とは何か』『時間とは何か』『生命とは何か』といった問いを探求し、内省しようとしているのだと思います」

PHOTOGRAPHY: Reiko Toyama at Lesen

INTERVIEW: Mika Koyanagi

STYLING: Yoko Miyake

PHOTOGRAPHIC ASSISTANCE: Kosei Nozaki
CLOTHES: ALEXANDER Knit, t-shirt and trousers THE ROW,

AZUSA Shirt and trousers THE ROW

Questionnaire

アレキサンダー・グローブス

1

あなたは何をしている人ですか?

私はアーティストです。けれど、夢を実現するために途方もない量の事務作業と向き合う仕事でもあります。

2

あなたの仕事で一番好きなことを教えてください。

自分が望むことは、どんなことでも実現できるし、最終的には必ず形にしてきたこと。

3

今の仕事をする上できっかけになったことは何ですか?

物心ついた頃から、ずっと変わらずにあるアートへの愛。

4

これまで最も影響を受けた人物は誰ですか?

両親。アズサ。リチャード・ウェントワースやユルゲン・ベイのような素晴らしい教師たち。そして、コーマック・マッカーシー、サミュエル・ベケット、ダグラス・アダムズといった優れた作家たち。

5

あなたを3つの言葉で表すと?

情熱的、好奇心旺盛、楽観的。

6

あなたを上げてくれるものは?

未来の構想に取り組むこと。心身ともに使い果たして眠りに落ちること。海で泳ぐこと。

7

今一番興味のあることは何ですか?

形のない混沌から、いかにして複雑なパターンが現れるのか。そして、真に新しく、かつ同時に時代を超越したものを創造できるかどうか。

8

これなしでは生きていけないもの3つ

海に向かって走ること。煎茶とアールグレイティー。

9

いつも必ず持ち歩いているものは?

計画

10

モーニングルーティンは?

4時半に起床。浜辺まで走る。10〜20分間座って海を眺める。走って戻る。食洗機を空にする。ご飯を炊く。子どもたちが起きる準備を整え、学校へ送る。ジムへ行く。その後、最も重要なプロジェクトを優先順位ごとにピラミッド状に書き出し、その日の主要なタスクを書き出す。

11

インスピレーションが降りてくるときは?

退屈しているとき、オフラインのとき、ペンと紙を前にしているとき。

12

時間を忘れるほど夢中になれることは?

プロジェクトを構築すること、書いているとき。

13

あなたにとって最高の贅沢は?

オフラインで誰にも連絡が取れない状態。人里離れた場所へ旅すること。

14

あなたはどんな時に渇望を感じますか? それは何にでしょうか?

身体を極限まで追い込んだあと。ピュアなココナッツオイル。イギリスのポテトチップス。

15

一番好きな色は?

水銀とネオンがプラズマ状態になったときに生まれる青。私たちのネオン作品で用いている色です。それは宇宙から見たときに地球の縁をなぞる、かすかな大気のハローを思い起こさせます。水の青ではなく、大気と虚空の境界で光そのものが散乱し、圧縮された光そのものの青。鉱物的で、成層圏のような輝き。

16

逆境に直面したときどのように向き合いますか?

自分自身と対話する。書き出す。計画を立てる。その計画を実行する。

17

人生で最も重要な決断は何ですか?

アズサを追いかけたこと。それは決断というよりも自然な流れでした。ロサンゼルスへ行き、そこでインテリアデザイナーのPaul Fortuneに出会い、その後プロダクトデザインを学ぶことを決め、そこでアズサと出会いました。

18

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

子どもたちが生まれたこと。去年の夏の終わり、娘が飼っていたクワガタのウニを木に戻すのを見守った瞬間。それは彼女にとって初めての『手放す』という経験でした。

19

五感のうち、あなたの欲望をもっとも刺激するのはどれですか?

匂い

20

好きな作家は誰ですか?

コーマック・マッカーシー。

21

本棚にある本で好きなものを3 つ教えてください。

『クララとお日さま』カズオ・イシグロ

『My Life on Mars』コリン・ピリンジャー

『北京物語』デイヴィッド・キッド

22

今旅するならどこに行く?

雪深い国。葉山からそう遠くない場所。

23

最近、心を動かされた瞬間は?

ウズベキスタンへの旅で、アラル音楽学校の子どもたちが民謡を披露するのを見たこと。

24

最も印象に残っている場所は?

カリフォルニア州のビッグサー。

25

子供のころからずっと好きで続けていることはありますか?

森の中にいること。

26

最近よく聴いている音楽は?

今はほとんど音楽を聴きません。主にオーディオブックや長編のポッドキャストを聴いています。

27

好きなミュージシャンは?

ケイト・ブッシュ

28

これだけはゆずれないことは?

29

好きな映画を3つ教えてください。

『インターステラー』クリストファー・ノーラン

『となりのトトロ』宮崎駿

『カサノバ』フェデリコ・フェリーニ

30

好きな食べ物を3つ教えてください。

ライチ、レバノン料理、鮨

31

初対面の人に対して最初に目がいくポイントは? 

その人のエネルギー。

32

記憶に残っている香りは?

モロッコの山あいの町に到着した最初の夜に感じたユーカリの木の匂い。家族で出かけた湖水地方で、ワックスをかけたトレッキングブーツの匂い。私の村にあるヴィクトリア朝の壁に囲まれた庭園で、太陽に温められたウォールジャスミンとローズゼラニウムの香り。カリフォルニア中部の海岸沿いに漂う、胡椒のようにスパイシーなコースタルセージ、モントレーパイン、カリフォルニア・ベイローレルの匂い。

33

人から受けた最善のアドバイスは?

『本物に目を向けなさい』Paul Fortune

『心配するな。ただ、良い仕事をしなさい』Richard Wentworth

『弱い者は他人を責める。自分を責めることは前進である。誰も責めるべき相手はいないと悟ることが知恵である』とされるソクラテスの言葉

34

寝る時に着るものは何ですか?

パジャマ

35

大切にしている価値観はなんですか?

心を開いて。優しくあれ。強い集中力をもって、ベストを尽くすこと。

村上あずさ

1

あなたは何をしている人ですか?

アーティスト

2

あなたの仕事で一番好きなことを教えてください。

頭の中で考えた物が現実になる瞬間。

3

今の仕事をする上できっかけになったことは何ですか?

世界で活動したいと思い12歳で渡英したこと。

4

これまで最も影響を受けた人物は誰ですか?

たくさんいますが、常に誰かに影響を受けています。

5

あなたを3つの言葉で表すと?

直感、好奇心、グルテンフリー

6

あなたを上げてくれるものは?

自然の中で食べるご飯。

7

今一番興味のあることは何ですか?

季節の移ろい。

8

これなしでは生きていけないもの3つ

温泉、自然、美食

9

いつも必ず持ち歩いているものは?

日焼け止め

10

モーニングルーティンは?

窓の外の山を見ながら白湯を飲む。

11

インスピレーションが降りてくるときは?

ぼーっと何かを見ている時

12

時間を忘れるほど夢中になれることは?

本屋

13

あなたにとって最高の贅沢は?

ゆっくりとした朝

14

あなたはどんな時に渇望を感じますか? それは何にでしょうか?

未知への体験

15

一番好きな色は?

16

逆境に直面したときどのように向き合いますか?

紙に書き出す。

17

人生で最も重要な決断は何ですか?

ふたりで進むことを選んだ時。

18

人生で最も感動した瞬間は何ですか?

想像もしない瞬間が現れた時。

19

五感のうち、あなたの欲望をもっとも刺激するのはどれですか?

匂い

20

好きな作家は誰ですか?

アラン・ド・ボトン

21

本棚にある本で好きなものを3 つ教えてください。

『Cy Twombly: Making the Past Present』 クリスティーネ・コンドレ

オン

『The Japanese Garden』 ソフィー・ウォーカー

『A Life Together』 アイノ+ アルヴァ・アアルト

22

今旅するならどこに行く?

カリフォルニアのロードトリップ

23

最近、心を動かされた瞬間は?

子供の運動会

24

最も印象に残っている場所は?

中国の人工毛工場

25

子供のころからずっと好きで続けていることはありますか?

空想

26

最近よく聴いている音楽は?

ジャズ

27

好きなミュージシャンは?

ニーナ・シモン

28

これだけはゆずれないことは?

フィーリング

29

好きな映画を3つ教えてください。

『ブレードランナー』 リドリー・スコット

『花様年華(かようねんか)』 ウォン・カーウァイ

『となりのトトロ』 宮崎駿

30

好きな食べ物を3つ教えてください。

お米、ダークチョコレート、旬の果実

31

初対面の人に対して最初に目がいくポイントは? 

雰囲気

32

記憶に残っている香りは?

2017年に発表したNEW SPRINGという作品の一部として制作したパフュームの香り。

33

人から受けた最善のアドバイスは?

想像できる事は実現できる。

34

寝る時に着るものは何ですか?

コットンのパジャマ

35

大切にしている価値観はなんですか?

好奇心

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Biannual style magazine introducing fashion, art,
culture and travel with an original perspective.

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